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今の教育に欠けている事 本質から政治を読み解く 本質を見極める力
出口  自民党の方には申し訳ないのですが、党の善し悪しとは無関係に、アンチ自民で僕はずっと来ています。理由は単純で、何十年間も一党独裁の政治が行われてきましたよね。どれだけ立派な党、素晴らしい政治家であっても、長いこと政官財が密着していると、必ず腐敗が起こってくる。
  小手先でどれだけ教育を変えたところで、今のシステムの延長線上では、現場が混乱するだけで何も変わらないと実感してから、知の枠組みそのものを抜本的に変えなくてはダメだと思って僕自身やっているわけですが、政治の問題も同じであって、根本を変えないと、少なくとも政官財の癒着をまず断ち切らないと何も起こってこないと思うのです。
松井  それこそが、我々が政治で目指していることで、民主党より自民党の方が立派なことを言っている分野だって、もちろんあると思うんですよ。われわれの政策にだって様々な批判もある。
 要はそれを選挙によってちゃんと選べるのだということを、多くの皆さんも自覚していなかったのではないでしょうか。
  今までは、ある枠組で与えられたルール――頑張りなさい、競争しなさい、人より早く走りなさい、人より少しでも良い成績を取りなさい――皆がそういうルール下の競争の中にいた。しかし、ルールそのものを変えられることに、今回初めて気がついたのかもしれません。
  2年前、ガソリン値下げの大議論がありました。ガソリンの暫定税率で25円分税金が上乗せされていたわけですが、暫定税率が当面ということだったのにも関わらず、何年間も固定化されていたのです。当時はガソリンが高かったですよ。180円とかね。
出口  レギュラー200円くらいになりましたね。
松井  そういう値段の時に、「なんだこれは。税率を下げてガソリンを値下げしようじゃないか」と言って、皆がプラカードを持って、のぼりを立ててガソリン値下げ運動をやって。ああいう運動のやり方は個人的には好きではありませんが、それなりに意味があったと思っています。
 その運動を応援したら、ある日の24時からパッと25円下がって、「あ、こういうことだったんだ」と。つまり、これまで当然の前提とされていたことを変えられることに気がついたのですから。
  問題意識を持つことで、それが道路特定財源とされ、その財源で道路を作ることを日本人自らが選択していたことに気づく。――ちょっと待ってください。この暫定税率というのは法律で決まっているんですよね。法律は誰が作っているの?自分たちが選んだ国会議員が作っているのでしょう――と。
  そういうことなんですよ。実は自分たちが選んだ代表者が議論して、われわれの暮らしを変えることも、変えないこともできる。これが国民固有の権利だと日本国憲法には書いてある。それを小中高の授業、あるいは現代史の最後の方で学んで、なんとなく記憶だけはしていた。しかし、その背景にあることや、権利が実際に行使できることについて考える訓練は出来ていなかった。
 あるいは違う文化の人たちに、日本はどういう国なのか、どういう歴史なのか、政治制度がどうなっているのかを説明できるような教育はなされてこなかったのです。
松井  この問題の根源はおそらく出口先生がおっしゃったように、なんとなく教えられて、それをなんとなく理解して、良い記憶力を持っている人が高い点数を取ることにあったのでしょう。でも、それだけではダメなのです。これからは世界中の人と付き合わなければいけない。同じ東南アジアでも全く違う文化がある。イスラムの国もあれば仏教の国もあればキリスト教が強い国もある。そういった違う国の人たちに、日本とはどういう国なのかを伝えられなくてはならない。
 そして多様な文化の中で生きていくためには、コミュニケーションの中で、相手の言葉から本質を抜き出して理解・整理し、他者との違いをつかみ、そして自分はこうだという自己主張をし、最終的には違いを乗り越えてどこで接点があるのか、あるいは違うものは違うものとしてどう共生するかを考えられる人でなければ、言葉はキツいかもしれないけど、ある意味では生き残れない。なのに、そういう教育をやっていない。
 出口先生がおっしゃったように、論理性みたいな軸がきちっとあれば、情報の洪水や時代の変化にも対応できるでしょう。しかし、その軸がないとどうしたら良いか分からず、自分の殻に閉じこもってしまう。あるいは今までの体制の中における自分のポジションを守るという選択をしてしまう。
 かつての受験戦争の勝ち組が多数を占める役人にはそういう部分が多いですよね。与えられたゲームのルールで勝ってきた延長で、どうしても自分が今生きている世界のルールの中で、自分のポジションを守ることに精力を注ぐ。それが既得権益や、自分たちの縄張りを守ること、あるいは天下り先を守ることにつながっていく。
 このようになってしまった原因のすべてを教育のせいにするつもりはありません。もちろん個人個人の責任だとは思いますが、やっぱり最終的には教育を変えていかないと解決しないのかな、と思いますね。
出口  そうですね。今おっしゃられるように、様々な人たちと国際的なコミュニケーションをはかったり、あるいは自分の考えを後の時代の人たちに伝えるのは全て論理の力ですから、やはり論理力がないと何もできないのです。それなのに教育が論理力に関してまったく何もしてこなかったのが現状だと思います。
 ここを教えてないということが、私は今の教育の最大の問題点だと思います。