HOME
>
対談・真剣勝負
> 第8回 宮台 真司
アドレッセンス回顧
コミュニケーションと宗教性
3.11で露呈した世界
引き受けて考える作法
宮台的革命論 ― 心の習慣を変えるために
宮台
最近の若い男女の関係性についてですが、傷つきたくないから入り込まない傾向が顕著です。性体験済みの若者の割合は、2000年に入ってから高3女子ですと47%前後でずっとフラット。男子は2006年前後に女の子に追いついて以降、ずっとフラットです。
だけど、2000年頃から一貫してステディ(特定の交際相手)がいる割合が減っています。僕の調査だと、女子大1~4年生にステディがいる割合が、2000年頃は4割だったのが、今は1割台。理由を聞くと、第一が「面倒くさいから」。第二が「他にも楽しいことがあるから」。
女子の答えは、男子にソクバッキー(束縛する恋人)が増えたことも背景の一つでしょう。1時間おきにメールしろ、3時間おきに写メを送れ……。暴力を振るう男子も増えました。男子の性交経験者の割合が増えたことによる、能力平均の低下もあるのでしょう。
最近は女子に、まともな男を見分ける3つのテーゼを話しています。第一に、過去の性愛体験を洗いざらい喋っても怒ったり耳を塞いだりしない男。「僕は君が好きで、君の経験は君の一部だから、君の経験の全てを受け入れる」と言える男です。
第二に「君はこういう人間だからこういう服は似合わない」などと、女子の服や髪型にいちいち文句付けない男。そういう男には女子をアクセサリー視する輩が多く、マザコンが目立ちます。多くの場合、母親の好みを内面化しているのでしょう。
第三に「君はこういう人だからこういう就職をすべきだ」などと、将来について断定的に言わない男。相手を知りもせず経験もないのにこれを言う男にも、女子をアクセサリー視するマザコンが多い。「母親の前にお出しできる仕事をしろ」という訳です。
出口
それは意外ですね。逆に、女性の過度な束縛を男性が嫌がるというパターンはないのですか。
宮台
病的なまでに相手を縛るのは、男が圧倒的に多いですね。女子も、残念ながら、それを縛られていると感じないで、「愛なのかなあ」とか同級生にしゃべっちゃう。「バカじゃないの」って思いますよ。そんなのは愛でも何でもありません。
男の単なるエゴイズム。エゴセントリック(自己中心的)なナルシシズムです。そういう男に限って、判で押したように「今度、母親に会わせるよ」と必ず言う。なぜなら、マザコン男にとって、母親の承認がナルシシズムの一つのポイントになるからです。
女性に覚えておいてほしいのですが、「君の男性経験なんて聞きたくない」「その髪型はだめだよ」「君はやっぱり理科系じゃなく文科系じゃないかなあ」、極めつけに「今度、僕の母親に会わせるよ」、これらが全部揃う場合、最悪の男になります。
出口
なるほど、女性の方は参考になったかな(笑)。
出口
僕も若い人たちを見ていると、恋愛のみならず、深い人間関係を極度に恐れているように感じます。表面だけのつきあいでつながっている若者たちが確実に増えている。結局、人間とそんなに深い関わりを持たなくても、ゲームやアニメなど、いろんなもので代償できてしまう。それが一つの時代的問題ですよね。
マザコン男に代表されるように、女性を自分と同等の人格を持った人間ではなく、まるで自らの所有物のように扱う男性が増えているのも、同じような理由によると思うのです。異質な他者を理解することはそう簡単ではないから、人と深く関わると必ず傷ついてしまうものですよね。でも今の若者は傷つきたがらないし、自分も悪者になりたくない。だから「人間」と実存的なところで深く関わることを無意識に拒んでしまう。その結果のアクセサリー化なのでしょう。
宮台
出口さんのおっしゃる通りで、結局「自分かわいさ」の檻から出られないんですよ。自分のプライドが傷つかざるを得ない状況か、セルフイメージに否定的な印象を抱かざるを得ない状況となると、必要以上にものすごくダメージを受けてしまうのです。
仕事中に上司や同僚から叱責されると、「私のこと嫌いなのね!」みたいな感じになって会社に来なくなってしまう。ゼミでも同じです。「君の発表の仕方はデタラメじゃないか」なんて言うと、「尊厳を傷つけられた」などと事務にクレームを出す。
男女交際は第一印象から入るので、かわいいから、頭が良いから、という理由で最初は好きになります。でも、かわいい人も頭が良い人もごまんといます。雨降って地固まるじゃないが、その人でなければいけない理由は、後からでき上がっていくものだと思うんです。
つまり、崩れては再構築するスクラップ・アンド・ビルドの過程を経て、その二人の間にしかない関係性の履歴が積み重なり、相手が唯一の存在になります。そして、二人の関係性なくしてはあり得ないようなセルフイメージになるわけです。
そのようなセルフイメージが育まれれば、もはや相手は「自分が自分であるために」本当に不可欠な存在になります。だから、別れる辛さは、単にプライドが傷ついた云々といった辛さとは別格なんです。
でも最近はそこまでいかないわけです。若い人たちは、つきあっても2週間から3ヶ月で別れるのが大半です。別れの理由を尋ねると、大抵が「思ったのと違ったから」という答え。
でも、僕らの世代だったら「思ったのと違う」のは当たり前。そこから歴史が始まりました。「思ったのと違った」としても、好きだから我慢し、何とか乗り越えようとして、悪戦苦闘した。かくして痴話喧嘩も含めたさまざまなトラブルが、関係性の履歴を形づくります。こうして、気づいてみると相手との絆ができ上がったわけです。
出口
最近の若い子たちは、そんなふうにトラブル込みで人とつきあい続けることができないようですね。
宮台
そう。トラブルを予感しただけで、回避して他の所に行きます。十年前に僕が出した『SPA!』の企画で統計調査したら、カレシ・カノジョの携帯電話を盗み見た経験があると答える20代男女が7割に及びました。初めから疑っているからです。
盗み見れば、必ず知らない人とのやり取りがあります。「なぁんだ、タコ足か」ってことで、リスクヘッジのために自分もタコ足化します。すると今度は、相手が盗み見て、「なぁんだ、タコ足か」ってことになって、お互いにタコ足状態になるわけです。
こんな風に、トラブルが起これば乗り換えられるように、元カノや元カレとのコンタクトを続け、メル友を確保したりして、潜在的タコ足状態を続けます。で、何かがあると、相談という名目で、スイッチする。その繰り返しなわけですよ。