出口 |
佐藤先生には“戦う憂国の評論家”というイメージを抱いていました。
いろいろな圧力があっても、権力に屈しない不屈の魂をお持ちだし、なおかつ、その戦う武器が非常にインテリジェンスというか……。
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佐藤 |
ありがとうございます。 |
出口 |
論理を武器に、権力にも屈せずに、多彩な活動をされているので、一度お会いしてお話をお聞きしたいと思っていたのです。
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佐藤
| まず出口先生に感謝を申し上げないとならないことがあります。出口先生の一連の現代文関係の読解の本、あれが私にものすごく役に立ったのです。そして、今でも役に立っているのです。
というのは、今までは、もう一回勉強し直したい社会人や、どうしても本当の教養が身についたと思えない大学生に対して、「どうすれば教養が身につけられるのか」について、なかなか説明しにくかったんですよ。具体的にどうやればいいという手引きがなかった頃、語学春秋社から出ている『現代文講義の実況中継』と出会い、特にCDの話を聞きながら「これだったら、標準的な中学生レベルの力がある人だったら積み重ね方式できちんとできる」と思ったのです。私は論理の問題というのは思想の問題とイコールだと、実は考えていますので、優れた思想書だと認識しています。
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出口 |
大変ご多忙な中で、どうして受験参考書を手にとられたのか、その理由を教えていただけませんか。 |
佐藤
| ある時に気がついたんです。
それは、檻から出てきた後、早稲田大学と慶応大学で少しお手伝いをしたときのことです。授業をしていても、どうも学生がその内容を全く理解できていないという感触を受けたのです。
そこで一回目に、山川の『詳説世界史B』の教科書を用いて、年号の試験を100題解かせました。教科書の太字を中心に、ウェストファリア条約とか明治維新、日露戦争勃発、ポーツマス平和会議、真珠湾攻撃、独ソ戦勃発、広島の原爆投下、二・二六事件、五・一五事件等で、「以下の年号を書け」と100題出したんですね。平均点は何点ぐらいだったと思いますか?
まず慶応の大学院、手嶋龍一さんがやっているインテリジェンス講座の大学院生で、修士課程。
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出口 |
でも、今挙げられたレベルなら誰もが知っていなければダメなことばかりですよね。となると、やはり8割くらいは。
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佐藤
| 4.2点でした。 |
出口 |
えっ。
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佐藤
| 42点ではなくて、4.2点です。
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出口 |
……驚きですね。 |
佐藤
| 次に、早稲田大学の政経学部の3年生でもやったんです。どれぐらいだと思います?
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出口 |
まぁ、早稲田の政経っていうのは、本当にもう一番の難関の……。 |
佐藤
| 文科系では一番ですよ。 |
出口 |
まぁ普通に考えればやっぱり7〜8割はとらないと恥ずかしいという気はするんですが。 |
佐藤
| 5.0点です。慶応より0.8点良かったです。二・二六事件が、196X年とか、広島の原爆投下が195X年とか、それからソ連の崩壊が2006年とか、腰を抜かすような答案を山ほど見せられてびっくりしたんです。
その結果を前にして、私はどこに問題があるのかとよく考えました。二つあるような気がするんです。
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出口 |
はい。
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佐藤
| 一つは、受験勉強が嫌いなのですね。 要するに、「どうして早稲田の政経に来たのか」ということに関して、親の期待に応えるとか、クラスメイトの前ででかい面をしたいとか、あるいはちょっと数学は得意じゃないから、それ以外の所で一番偏差値が高いところに行きたいとか、それ以上の動機がないんですね。慶応も同じなんですよ。だから、日本の新入生歓迎講演で、異常に「大学生は何をなすべきか」っていうタイトルが多いんですね。
しかし、イギリスとかロシアとかチェコなどの国では、「大学生が何をなすべきか」ということ自体がテーマになることは考えられないんですよ。
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出口 |
そうでしょうね。
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佐藤
| 多分日本と韓国だけだと思います。目的を持たずに大学に入ってくる人間がこんなに多いのは。 |