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基調講演「IB導入のもつ意味」大迫弘和(リンデンホールスクール中高学部校長、広島女学院大学客員教授(IB調査研究室長)、『国際バカロレアを知るために』編著者)

 IBについて非常に概括的な説明をさせていただきますと、IBとは、「IBの使命(IB Mission Statement)」、「IBの学習者像(IB Learner Profile)」、「四つのプログラム」といった三層構造の中で探究型概念学習を、リベラルアーツの枠組みで実施する全人教育、というふうに言うことができます。その中でもとりわけ「IB Learner Profile」の理解なしでは、IB教育の真の意味での実践はありえないと私は考えています。加えて、IBは英語の教育、語学教育ではなく教育カリキュラム全体で行う全人教育なのです。ですから何語でも実施することが可能です。これも非常に大事なことなので、最初にこの点だけはお伝えして、具体的な内容に入りたいと思います。
 「JAPAN is BACK」という言葉、ご存じかと思います。日本再興戦略のサブタイトルにこのように名前をつけて、現在政府が動いています。今日は「Japan is Ready」―さあ、日本はいよいよ準備ができたぞということで基調講演を始めようと思いますが、では何の準備ができたんでしょう。

大迫弘和

 「グローバル化に対応した教育を牽引する学校群の形成」。高校教育のグローバル化を推進するという中で、今、二つの柱が打ちだされています。一つが、スーパーグローバルハイスクール(SGH)。これは2014年4月から56校が指定されています。もう一つが、IB。2018年までにIB認定校を200校生みだす。他に小・中・高一貫した教育のグローバル化の大きな取り組みとしては、英語教育というものがあるのは皆さんご認識のとおりですが、高校だけに限ると、この二つがグローバル化という目標の中で掲げられています。2013年6月14日、「日本再興戦略―JAPAN is BACK―」の中でこの二本の柱が閣議決定されました。
 では、なぜこういうような主張、方向性が打ちだされたか。21世紀という時代、IT・情報革命、知識基盤社会、新自由主義、グローバリゼーションというものが複雑に絡み合って、世界が動いている。こういう時代をこれから生きていく子供たちに対して、われわれは、どのような教育を提供したらよいか。教育というのは、子供たちが彼らの時代を生きるための用意をさせてあげるものですから、ちゃんとこの時代に生きていけるような教育の準備ができなくちゃいけない。
 この状況は、今、急に浮き上がったかというとそうではなく、識者の間では20年以上も前から予見されていたことです。そのための教育の内容は、そのときから考案され、提案されてもいました。「ゆとり教育」と呼ばれている教育も、実は本質的にはそういうものでした。
 では、今までの教育がどうだったか。私は、戦後ずっとこの国でみんなが一生懸命力を注いできた教育を、「高度に発達した事実暗記型教育」と名づけています。学習の目標としてあったのは、知識の量を増やしていくことでした。そこに1960年代の後半に偏差値というものが登場して、この事実暗記型教育に見事にフィットしたんですよね。これがセットになって、事実暗記型教育はとても強固なものになっていった。更にそこに、ある意味それを完成するような形で受験産業が加わり、この三者が一体となった形で突き進んだのが、これまでの日本の教育だったと思います。
 日本は、色々なものを本当に丁寧に仕上げていく力のある国です。この事実暗記型教育をやっている国は日本だけではないのですが、ここまで徹底的に完成した形に作り上げたのはまさにこの国の力なんです。これまで私たちはこの教育の中で様々な努力を続けてきました。

グローバル化に対応した教育を牽引する学校群の形成

大迫弘和

 さてそれではこの教育がどのように変わっていかなければならないかということで、次に「20世紀型教育」と「21世紀型教育」というスライドを見ていただいています。
 事実暗記型教育、つまり「20世紀型教育」で知識を獲得するために、これまでは先生方が一生懸命教授してくださった。だけど、そのような形の教育の歴史的使命は終えたのです。今までの教育が間違っていたわけではないのですが、歴史的な使命を終えた教育を続けていてはいけない。「21世紀型教育」に移っていかなくちゃいけない。先生の役目も、“teach”(教える)ではなく、“navigate”(導く)、“facilitate”(手助けをする)なのです。これから教員になる若い人たちには、こういう形のトレーニングをしていかなければならないのはもちろん、今いる先生方も、21世紀型教育を実施できるように変わっていかなければなりません。
 そして、21世紀型教育のモデルとして浮かび上がったのが、IBの「ディプロマ・プログラム」。高2・高3の2年間のプログラムです。21世紀型教育で、今、最も完成度の高い教育として、このプログラムを日本でやろうということになっています。英語でディプロマを実施する学校が200校のうち10校から20校ぐらい、日本語で実施する学校は180前後になるでしょう。

20世紀型教育と21世紀型教育

 しかし日本には今、高等学校が5,000校あります。IB校が200校できて、それで終わりじゃない。IB校が生まれることによって、他の4,800校が20世紀型教育から21世紀型教育にどうシフトできるかが、この200校プロジェクトの一番大きな課題です。
 私自身、今回の200校計画に準備の段階から、IBに長く携わってきた者として、文部科学省、国際バカロレア機構の方に必要な協力を続けて、たくさんの学校・地域とお話をしてきていますが、その中で、やはり200校プロジェクトは決して簡単ではないという実感を持っています。そこで、今日の基調講演の問題提起として、次のようなことをお話ししたいと思います。
 IBは、確かに共有する意味と価値があるプログラムです。しかし、その意味と価値が頭の中で理解できても、実際に導入しようということになると、なかなか踏みだせない難しさがあります。その難しさというのは、日本固有の風土や文化に起因するものなのか、それとも、何か別のことに起因するものなのか。日本は今、IBを導入し、それをきっかけにして教育イノベーションを起こす状態であるのだろうか。「Is Japan really Ready?」というのを今日の問題提起にしたいと思います。



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