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主賓御挨拶 北城恪太郎(日本アイ・ビー・エム株式会社相談役、学校法人国際基督教大学理事長)

 私は日本アイ・ビー・エムの仕事の他に、文部科学省の中央教育審議会委員、国際基督教大学の理事長など、教育関係でも仕事をしているのですが、今回、『国際バカロレアを知るために』が出版されたことを大変うれしく思っております。
 文部科学省では、2018年までに国際バカロレアの認定校を200校にしようと推進しているのですが、なかなか十分に知られていないところがあります。これからはグローバル化する社会です。グローバルというのは、日本人が海外へ出る、海外の人が日本に来るなど、色々なことがありますが、実は国際バカロレアというのは、必ずしも海外で活躍することだけではなく、これからの社会に求められる能力なのです。特に、知識を吸収するだけではなく、その知識を使ってどう課題を解決するかなど、自ら考える力、あるいは批判的な精神を持つこと。そして、幅広い教養・高い倫理観を持ち、人の痛みもわかる―そういう、教育の本来あるべき姿を追い求めているのが国際バカロレアだと思うんですね。
 IB認定校を卒業して海外の大学に行くということも、手段としてはあると思います。しかし大学教育も含めたこれからの日本の高等教育は、IBの思想で入学者選抜も変えていく必要があると思っています。なぜかと言いますと、日本の大学で知識を吸収しただけでは、これからの社会では活躍できないからです。自分で課題を設定し、色々なことを考えながら、自ら新しいものを作り出していく。いわゆるイノベーションを起こす力が必要ですが、現状ではそれができる教育になっていない。
 特に日本のほとんどの有力大学では、記憶をしているか、知識を持っているかどうかが入学試験で求められます。しかし試験の成績で学生を採用する会社は、ほとんどありません。9割以上が面接で、本当に自分で色々なことを考えられるのか、リーダーシップはあるのか、うまくコミュニケーションができるのかなど、人物を見て採用しているわけです。従って経済界から見ると、日本の大学、特に入学者選抜の仕組みは変わらなきゃいけない。IB認定校が200校になって、卒業生が海外の大学だけではなくて、日本の有力大学に入っていくことも重要なのです。

北城恪太郎


 今、中央教育審議会では、大学の入試改革にも取り組んでいます。『国際バカロレアを知るために』では、国際バカロレアの必要性や具体的な取り組みはもちろん、その結果として日本の大学教育、特に入学者選抜を変える必要があるというところまで、幅広いテーマを取り上げていますので、私は、大変良い時期にこの本が出版されたと思っています。 今日のシンポジウムを通して、国際バカロレアの持つ意義はどういうところにあるのか、そして今後の課題は何か。特に日本の大学が、AO入試等でIB生徒の入学を認める方向に動いていますが、一部の学部の一部の生徒だけではいけないと思うんです。全部の大学の入学者選抜が、IBを基にしたAO入試に変わっていくべきだと思うんですね。
 ご存じのように、アメリカの大学では、大学ごとの個別の入試がありません。学力やIBのスコアの他に、推薦状―高校時代に何をしていたか、大学へ入って何をしたいとか、色々なことを見ながら丁寧に入学者を選抜していきます。日本の大学もそういうふうに変わっていくべきだと思う。その大きなきっかけは、このIB200校です。これが日本社会、教育界を大きく変えていくと期待していますので、今日、皆さんとこの問題について議論できることは、大変うれしいことです。また、大迫先生をはじめ多くの先生方が出版にご努力いただいたことに感謝しています。これが日本の教育を変える起爆剤になればと思っております。



北城恪太郎